京都市立大学オンライン集中講義 終了! 長い猛暑が終わり、やっと秋らしくなってきました。 皆様はいかがお過ごしでしょうか。 9月半ばの京都市立芸術大学の集中講義が異例のオンラインとなりましたが、無事に終了致しました。 本来ならば、京都へ行き3日間15コマを行ってきました。 この講義は、私が過去20年に世界中のチェンバロやフォルテピアノの楽器博物館やコレクションを回り実際に弾いて発見したことを、是非ピアノ科の学生にも感じて欲しいと思い構成されています。 講義の1/3は実際にバッハをチェンバロで皆の前で演奏して頂く内容です。 しかし、オンラインの場合はそれができない! また、楽器の写真や説明の600枚のパワーポイントをただ見てもつまらない・・・ 授業中は関連のあるバッハやフランス音楽、スカルラッテイ、また各様式の比較を私自身がチェンバロで弾いて目の前で聞いて感じて貰う方法でした。 それもできない・・・ さて、どうするか? オンラインで15コマをどの様に構成すれば一番分かりやすいのか考えた末、スライド600枚にチェンバロやバロックオーケストラの音源をBGMとして埋め込み、動画ビデオにすることにしました。 また、バロックダンスの講義では、舞踏譜を見ながらダンサーが横で踊って、音楽を聴いて関連性を感じて貰えるように多くの動画を埋め込みました。 なかなか、メヌエット、ガヴォット、パスピエ、サラバンド、パッサカリアの違いなどバロックダンスを体験していない場合は想像しにくいため、見るのが一番早いと思ったからです。 結果、7-8月の猛暑は浪人生の様に籠もって1日8-10時間かけてどうにか1ヶ月半でビデオ16個を仕上げました。 当初予定していた講義日程よりも3週間早く学生へ公開して、好きな時に見てオンラインでテスト16個に感想なども添えて提出=出席扱いとしました。 また、実技の演奏の指導をどうするのか考えました。本来、授業中に演奏して頂くのを講義2週間前にビデオ提出して貰い、35名全員にコメントを書いていき、気が付いたら50ページ以上の内容になっていました。 多くの方の演奏を聴かせて頂き、共通する改善点が浮き彫りとなりました。 1.装飾が適当→バッハの装飾表があるのに、きちんと確認しないで弾いている場合が多い 2.和声→一体何の和音の中で書かれているのか分析をしていない。分かっていても認識が弱い。 3.終止形→終止形をきちんと感じていない。 4.曲最後のRit→2-3小節前から始めてやり過ぎている場合が多い。 コメントを全員に返却後は講義の3日間でピアノ科の約30名のみ2回目はzoomのオンラインで皆の前で演奏して頂くことにしました。 すると、 皆さんコロナのこともあり、最近は人前であまり演奏していなかったという緊張もあったようですが、1回目の録画演奏よりも練習して上達していました。 1日1人8分x10名で3日間30名という限られた時間でしたが、インベンション・シンフォニア、パルテイータ、フランス組曲、イタリア組曲、フランス風序曲のオンラインレッスンをさせて頂きました。 やはり実技は実際に演奏して頂き、こちらもチェンバロで弾いて見せないとなかなか分からないことが多いです。 勿論、音質は圧縮されてしまいますが、椅子の座り方、体の重心の掛け方、タッチ、手首や腕の使い方、呼吸なども含めて色々なことが動画で分かります。 また、装飾はバロック音楽において非常に重要なので、ダングルベール、バッハ、フランソワ・クープランの装飾表を実際にチェンバロで弾きながらご説明させて頂きました。 画像は2回クリックすると拡大してご覧頂けます。 下はダングルベールの装飾表、上はバッハがそれを写譜したもの バッハの装飾表 初日と3日目は全員の生徒に、各自の音楽観(日頃、どの様なことを感じて音楽をしているのか)、将来どの様な音楽家になりたいのか、などを生徒に聞いて話して貰いました。 嬉しかったのは、チェンバロの構造や強弱をレジスター(上鍵盤、下鍵盤、4フィートの3本の弦の組み合わせで変えられること)や各国の様式や装飾の違いを知って貰えたこと。 また、3名ほど”バッハは苦手”、”バッハはつまらない”と感じていると初日に話していた学生が、2日後のインタビューでは、”こんなにバッハが自由で良いと思わなかった”、”バロック音楽の楽しさが少し分かった”など、イメージを払拭できていたことです。 講義ビデオで様々なチェンバロやオルガン、クラヴィコードの演奏を聴いて、同じ曲でもこんなに奏者や楽器によって異なるのかと感じ、オンラインレッスンでより自由な表現を見て驚いたようです。 特に17世紀フランス音楽のルイ・クープランの小節線のないプレリュード(↑楽譜)は、全て全音符で書かれており、テンポと小節が設定されていません。 まるで、即興演奏のように自由に弾く様式です。 こんなジャズみたいなスタイルがバロック時代にあったなんて・・・と目から鱗だったようです。 実際、このプレリュードについて説明した講義ビデオのアンケートに実際に弾いてみたいか聞いたところ、 1.分からない・未知の世界 2.興味はある 3.弾いてみたい の見事に3等分に分かれていました。 その中から、弾いてみたいと答えた3名に弾いて頂いたところ、3者3用の異なる演奏で聞いていた他の生徒も大変面白かったようです。 また、作曲科の生徒にその場で、同じ和声で自由に即興して頂きました。 何とも素敵な現代&バロック風なパッセージが入り交じった即興演奏で、私も拍手をして新鮮でした。 始めはオンラインで一体大丈夫かと大いに心配しましたが、講義ビデオ(オンデマンド)とzoomのオンラインレッスン90分x4回で、チェンバロ奏法について実際に弾きながら説明したことで、ピアノとの違い、またピアノ奏法にもいかせる色々なヒントをお伝えさせて頂きました。 今後は、オンラインレッスンや講義が世界的にも用いられて行くと思いますが、色々な可能性があると思います。 しかし、演奏だけを純粋に聞きたいときは、勿論生演奏以上に素晴らしいものはありません。 音の余韻、生まれる瞬間はその時、その場に集っていらっしゃる聴衆の皆様とご一緒に生まれるライブ感が何よりも醍醐味だと思います。